※この記事では、映画「おーい、応為」のネタバレを含みます。これから鑑賞予定の方はご注意ください。
はじめに|どんな映画?
江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎の娘であり弟子でもあった葛飾応為(おうい)。
離縁して実家に戻り、父・北斎が90歳で亡くなるまで共に過ごした日々を描いた作品です。華やかに見える浮世絵の世界の裏で、応為は自分の生き方や恋愛に悩みながら日々を過ごしていました。特別な才能を持っていても、人は誰しも悩みを抱えながら生きていて、そこには大きな違いはなく、同じ人間としてのリアルさを感じました。
あらすじ
江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の娘であり弟子でもある葛飾応為(お栄)の人生を描いた作品。お栄は絵師に嫁ぐも夫の才能を見下して離縁し、父・北斎のもとへ戻る。貧しい長屋で共に暮らしながら、父から絵を学び、才能を開花させていく。北斎に「応為」の名を授かり、女性としては珍しく浮世絵師として生き抜いた彼女の生涯を、長澤まさみ主演・大森立嗣監督で描く。
作品情報
監督・脚本:大森立嗣
原作:飯島虚心「葛飾北斎伝」(岩波文庫刊)
杉浦日向子「百日紅」(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
葛飾応為/お栄:長澤まさみ
葛飾北斎/鉄藏:永瀬正敏
髙橋海人/大谷亮平/篠井英介/奥野瑛太/寺島しのぶ ほか
公開日:2025年10月
上映時間:122分
感想・考察
父・北斎との関係性
2人はどちらも感情の起伏が激しく、思ったことをオブラートに包まずにストレートにぶつけ合う似た者同士です。怒鳴り合うシーンが印象に残るほど喧嘩が絶えませんが、浮世絵師としては互いの実力を認め合っています。北斎が「美人画では応為に勝てない」と語る場面もあり、表面的には不仲に見えても、根底には深い尊敬と信頼が感じられました。
葛飾応為の悩みと生き方①
離縁して浮世絵師として生きることを決めるまでは、捨て犬のさくらを飼いはじめたり、特に働く様子もなく、どこか宙ぶらりんな日々を過ごしていました。母親には「いい人いないの」と再婚を勧められたり、北斎の兄弟子に恋心を抱くものの、妹のようにしか見られておらず失恋します。そんな姿はどこか私たちと重なり、時代が違っても悩みや葛藤は同じなんだと感じました。
葛飾応為の悩みと生き方②
応為が浮世絵師として生きることを決意してからは、迷いが消え、創作に情熱を注ぐようになります。それまでの停滞した時間から抜け出し、生き方や日常そのものに色が付いたようでした。心の奥ではずっと「浮世絵を描きたい」という思いがあったのに、世間の「結婚したほうがいい」などの常識や価値観に縛られて苦しんでいたのかもしれません。自分の本心に正直に生きることが、人生を動かす一歩なのだと感じました。
葛飾北斎という人物
引っ越しをするシーンが何度か登場し、特に印象に残りました。調べてみると、史実では北斎は生涯で93回も引っ越しをしたそうです。90歳まで生きたことを考えると、ほぼ年に1回のペースで引っ越していたことになります。その理由は、整理整頓や掃除が苦手で、部屋が汚れるたびに引っ越していたからだとか。このエピソードからも、彼が絵を描くこと以外にはほとんど関心がなかったことが伝わってきます。終盤では、筆を握ったまま息を引き取るシーンが描かれ、まさに人生のすべてを絵に捧げた人だったのだと感じました。
おわりに
一見、応為を中心とした物語のようでいて、実は北斎の人生そのものにも深く踏み込んだ作品でした。日常の描写が多く派手さはないものの、彼らが特別ではなく同じ人間として生きていたリアルさが感じられます。派手さよりも、ありのままの人間らしさを感じられる映画です。
気になった方は、ぜひご覧になってみてください。ただし、女性の胸が映る場面などお色気シーンも多めでしたので、その点はご承知のうえでどうぞ。

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